研究概要 |
1. 目的 顎堤粘膜が極端に薄い症例や,口腔内にオブチュレーターを装着する症例では,しばしば軟質裏装材を使用する.しかしながら,軟質裏装材はCandida albicansの増殖を助長する傾向があり,これに対し抗菌材を含有したアクリル系軟質裏装材を用い,機械的性質および抗菌性試験を行った結果,良好な結果が得られた.そこで物性の安定したシリコーン系軟質裏装材に抗菌材を添加し,抗菌材含有率を変化させ,シリコーン系軟質裏装材の機械的性質と抗菌性に及ぼす影響について比較検討を行った. 2. 結果 大気中放置後のショアー硬さ試験の結果,平均値の経時的変化は抗菌材の有無に係わらず増加傾向を示した.また,水中浸漬後のショアー硬さ試験の経時的変化も大気中放置後の結果と同様となった.吸水試験の結果,抗菌材含有シリコーン系軟質裏装材の中で比較的安定した値を示したのは,抗菌材含有率1,2%であった.抗菌性試験の結果,サーマルサイクルテストを行わなかった場合,抗菌材含有率3%までは生残菌数が増加傾向を示し,サーマルサイクルテストを行った場合,抗菌材含有率2%までは,生残菌数が減少したが,3%以降は増加傾向を示した.分散分析を行った結果,サーマルサイクルテストを行わなかった場合,抗菌材無添加に対し,3%のみ,サーマルサイクルテストを行った場合は,5%のみ有意な差が認められた. 2つのショアー硬さ試験および吸水試験の結果から,抗菌材をシリコーン系軟質裏装材に添加した際,抗菌材とシリコーンに化学結合が存在しないため物性の劣化が起き,ショアー硬さの数値に大きな変化が認められなかったのではないかと考えられ,この傾向は特に水中浸漬の際,顕著に現れた.また,化学的結合が得られないもう一つの問題点として,抗菌材とシリコーンとの間に間隙ができることに加え,母材である高分子軟性材料が多孔質であるため,吸水試験や抗菌性試験で良い結果が得られなかったと思われる.
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