研究概要 |
本研究目的は、細胞の寿命に関与しているテロメラーゼに注目し、特に癌細胞ではテロメアを付加・伸長させるテロメラーゼにより細胞分裂を無限に行うことを可能にしていると報告されているので、癌の増殖を抑制する抗癌剤がそのテロメラーゼにいかに影響を及ぼすかを検討した。本研究では抗癌剤として現在あらゆる領域で最も使用頻度の高い抗癌剤であるシスプラチンを用いた。 当科が治療を行った口腔悪性腫瘍患者からの臨床検体では約8割にテロメラーゼ活性が高値を示したことより、テロメラーゼは抗癌剤の標的になりうると思われた。 扁平上皮癌細胞株A431とそのシスプラチン耐性株とを用いたin vitroの実験で親株に比し耐性株においてテロメラーゼ活性の上昇が認められた。扁平上皮癌細胞株A431およびそのシスプラチン耐性細胞株C-1,C-2をヌードマウスの背部皮下に移植しシスプラチンの投与を行ったin vivoの実験で、A431群では主要重量の減少が認められた。しかし、C-1,C-2では腫瘍重量は増大し抗腫瘍効果は認められなかった。さらにシスプラチン投与後の各群から摘出した腫瘍のテロメラーゼ活性を測定したところ、A431ではテロメラーゼ活性の著しい抑制が認められたが、C-1,C-2ではテロメラーゼ活性のわずかな減少を認めただけであった。このことはin vitroの結果と同様の結果を示した。また、A431,C-1,C-2さらにヒト口腔癌由来の扁平上皮癌細胞株であるHSC2,KB,HSC3,HSC4を用いて各細胞株のシスプラチン感受性とテロメラーゼ活性との関係を検討したところ、シスプラチン感受性の低い細胞株ほどテロメラーゼ活性の上昇を認め、シスプラチンの抗腫瘍効果とテロメラーゼ活性との相関が示された。 以上の結果より、臨床においてシスプラチンを用いる場合、シスプラチン感受性の指標としてテロメラーゼ活性の有用性が示唆された。
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