研究概要 |
BCG菌は様々な抗原性蛋白質を分泌するが,菌株によってその分泌量が異なり,抗腫瘍効果も異なっている.また,BCG菌は直接的な抗腫瘍効果とともにマクロファージ(Mφ)を介した間接的な効果も合わせ持っている.組み換えBCG菌を用いた癌免疫化学療法に関する研究にあたり,まず,BCG菌で多量に発現分泌する蛋白質の遺伝子の発現機構,調節因子,DNA結合蛋白質について検討を行った.次にBCG菌由来の蛋白質の直接的抗腫瘍効果を検討し,さらに間接的な効果を検討した. MPB70はBCG菌パスツール株ではほとんど分泌されないが東京株では多量に分泌される蛋白質である.その遺伝子構造は全く同じで転写段階で調節されていた.ゲルシフト法でDNA結合蛋白質を確認した後,約20kDaの蛋白質を抽出しsingle-strand DNA-binding proteinであることを確認した. BCG菌東京株より分泌蛋白質(CF)細胞破砕液(Ly)を調整し,ヒト舌扁平上皮癌由来樹立細胞株(SCC-25)およびヒト歯肉由来線維芽細胞様細胞を用いて,細胞増殖に及ぼす影響を測定した.CFおよびLyは濃度依存性にSCC-25の増殖を抑制した.CFはLyに比較してより高い増殖抑制効果を認めた. Mφを介した間接的な抗腫瘍効果については,BCG菌感染Mφより細胞を分画し,Mφ内でのBCG菌の分泌蛋白質の移行を検討した.MPB70は細胞質のみに確認され,ファゴゾーム内より細胞質に移行していることが示唆された.腫瘍細胞にBCG菌を感染させた場合も,同様の移行が認められた.通常,細菌はMφに貪食され,ファゴゾーム内でペプチドに断片化され,MHCクラスII分子に結合して細胞表面に抗原が提示される.今回の実験結果では,MHCクラスI分子を介して抗原が提示され,CD8T細胞が活性化され,細胞傷害活性が高められる可能性が示唆された.
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