研究概要 |
癌の転移・浸潤の第一段階は原発巣からの癌細胞の離脱から始まる.そこで私たちは,原発巣における細胞接着機構に着目し,口腔原発扁平上皮癌を対象に細胞間接着分子の発現性から,癌の特性である浸潤・転移の関連性を検討した.口腔癌においてもカドヘリンの発現が認められ,細胞膜に強く発現するもの,減弱しているもの、欠失しているものがみられた.カドヘリンの発現性の強弱と原発腫瘍径や臨床病期とは相関しなかったが,カドヘリンの減弱あるいは欠失は,癌の分化度と浸潤様式と負の相関を示した.また,累積生存率もカドヘリンの減弱あるいは欠失しているものは低かった.しかし一部の癌ではカドヘリンを強発現していても,高浸潤能・高転移能を有し予後の悪い症例を認めた.そこで,カドヘリンの接着機能を制御しているα-カテニンの発現性を検討した.α-カテニンの発現減弱あるいは欠失は,カドヘリンと同様に,原発腫瘍径や臨床病期とは相関しなかったが,癌の分化度と浸潤様式と負の相関を示した.また,α-カテニンの発現減弱あるいは欠失は頸部リンパ節転移例と非転移例との間で有意差を認めた.これらの結果から,腫瘍の転移様式は腫瘍の発生初期からすでに確立されており,カドヘリン-カテニン複合体を介した細胞接着機構の破綻が口腔原発癌の転移に関与すること,また,α-カテニンの発現減弱あるいは欠失は接着機能の不全を反映することが推察され,両接着分子の検討は口腔癌治療の予測の一助となるものと考えられた.
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