研究概要 |
以前の研究において,4-Nitroquinoline l-oxide(4NQO)誘発ラット舌癌の発生過程におけるp53タンパクの発現を免疫組織化学的方法およびイムノブロッティング法により検索した.その結果,p53タンパクは経時的に増加することが明らかになり,その質的あるいは量的な異常がこのモデルにおける発癌過程と密接に関連していることが示唆された.そこで本研究では同じモデルを用い,組織学的な変化と対比しつつp53遺伝子の異常をPCR-SSCP法で検討した. 実験には1群5匹のSD系ラットを用いた.各群に50ppm4NQO水溶液を投与し,投与開始後4週,8週,12週,16週,20週,および24週で4%PFA溶液にて灌流固定したのち舌を採取した.p53遺伝子の検索には,各標本のパラフィン切片からTaKaRa DEXPATを用いて抽出したDNAを用いた.これを鋳型としてexon5,6,7,8についてPCRで増幅した.次にSSCP法としてPCR反応液をホルムアルデヒド存在下で80℃,5分間加熱し,そのまま室温で冷却した.DNAを一本鎖に解離した後,低温下でポリアクリルアミド電気泳動を行った.泳動終了後ゲルを銀染色し,各エクソンにおける変異の有無を検索した. 病理組織学的には4NQO投与開始後8週から舌根部に過形成上皮,12週から異形成上皮が出現し始め,16週ないし20週で初期の発癌がみられた.SSCP法による遺伝子検索では,exon5,6,7では変化がみられなかったものの,12週以降のグループでexon8に変異がみられた.すなわち,発癌が観察される直前の時期からP53遺伝子の変異が証明され,4NQOによる発癌にP53遺伝子が関与する可能性が示唆された.
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