研究概要 |
エイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA-E)はアラキドン酸と骨吸収のケミカルメディエーターであるプロスタグランディンの産生抑制作用を有する。本研究では,EPA-Eの経口投与が実験的歯の移動と移動後の後戻り時の骨吸収におよぼす影響について検討すると同時に,脛骨の組織学的骨形態計測によって全身的影響を評価した。 4週齢雄性Wistar系ラットを対照群と実験群に分けた。対照群には5%アラビアゴム水溶液,実験群にはEPA-E1000mg/kgを24時間毎に胃ゾンデを用いて経口投与しながら4週間飼育した後,上顎両側第一臼歯を初期荷重20gで頬側移動させた。移動期間は0,3,7,14日とした。さらに,14日間の移動後に装撤撤去し,3,14日後の歯の後戻りを観察した。移動開始直前,装置撤去時,実験終了時に採得した精密歯列模型上で歯の移動量と後戻り量を計測した。実験期間終了後,第一臼歯の水平断脱灰薄切切片を作製し,TRAP染色標本を用いて圧迫側における骨吸収の定量的評価を行った。また同時に,テトラサイクリンとカルセインの投与による骨2重標識を施した上で脛骨近位部の組織学的骨形態計測を行った。 1. 実験群では歯の移動量は対照群の81.8%,後戻り量は82.5%にとどまり,有意に小さくなっていた。いずれの場合も圧迫側の組織学的観察によると,実験群では破骨細胞数は対照群の約70%,骨吸収は約80%にそれぞれ有意に減少していた。 2.脛 骨近位部では,対照群に比べて実験群の破骨細胞数は約60〜70%,骨吸収は約80%に抑制されていたが,骨の成長や形態,あるいは骨梁構造に関して有意な変化は認められなかった。 以上の結果より,EPA-Eの長期経口投与は,圧迫側の破骨細胞の出現と骨吸収を抑制することによって歯の移動と移動後の後戻りを遅延させるが,全身的な骨代謝への影響は小さいことが示唆された。
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