研究概要 |
小児の外傷は,交通事故の多発や社会環境の変化により増加傾向にあり,口腔周囲の外傷は歯や歯周組織だけではなく,顎骨にも影響が認められる。とくに,外傷時のパノラマエックス線写真には,下顎骨の頸部,頤部および骨体部に骨折線がよく認められる。そこで,私たちは,小児の乾燥頭蓋から下顎骨の有限要素法モデルを作成し,実際の外傷による外力の荷重部位などを考慮しつつ応力の解析を行い,外傷時の下顎骨骨折の損傷様式を探求する目的で研究を行った。 小児の乾燥頭蓋の下顎骨は,3次元計測器(マイクロスクライブ3DX)を用いての下顎骨の外形を測定し,下顎骨の内部は,エックス線CTを用いて乳歯と永久歯歯胚の位置関係などを撮影して,XYZの3次元像を作成した。その下顎骨を812個の節点と636個の要素に分割した。荷重量は,10Kgfとした。 変位:1.下顎骨乳前歯部では,乳前歯部が後方に変位し,下顎骨頸部に屈曲が認められた。2.乳臼歯部では,乳臼歯部が内側に,反対側の乳臼歯部が外側に変位が認められた。3.第一大臼歯部では,第一大臼歯部全体が内側に変位が認められた。4.筋突起・下顎角部では,下顎角部が内側に変位が認められた。応力:1.下顎骨乳前歯部では,両側下顎頸部内側に強い応力を認めた。2.乳臼歯部では,後方乳臼歯歯冠部と反対側下顎頸部に強い応力を認めた。3.第一大臼歯部では,後方乳臼歯歯冠部と第一大臼歯部に強い応力を認めた。4.筋突起・下顎角部では,下顎角上部,下顎頸部や関節頭部に強い応力を認めた。 今回の研究から,小児の下顎骨の外傷時には,外傷の受傷部位により損傷を受ける部位が相違することが認められた。また,解析により応力が高くなる部位が,下顎骨骨折が好発する部位と一致することが認められた。
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