研究概要 |
地衣は特徴的な地衣成分で知られ,その広範な生物活性も明らかにされている.一方,地衣菌を高浸透圧条件下で培養すると,地衣成分や新規化合物を生産させることが可能である.そこで有用な生理活性化合物の探索を目的として,各地で採集した数種の地衣菌を単離培養し,成分検索をするととともに,生合成研究を行った. 日本で採集したGraphis cognataの地衣菌培養からは,graphislactone AとCと共にalternariolを単離し,アメリカで採集したG.prunicolaの培養からはgraphislactone A-Dを単離した.またG.Prunicolaを用いて^<13>C標識の酢酸の投与実験を行い,新たに二種の新規代謝物の単離構造決定を行うとともに,graphislactone類がalternariolを経る経路で生合成されることを強く示唆する結果を得た.また日本で採集したPyrenula japonicaとアメリカで採集したP.pseudobufoniaの地衣菌培養から,selerotiorinとともに3位にメチル基をもつ4種の新規xanthone類を単離し,構造を決定した.さらにLecanora cinereocareneaの地衣菌培養からは,3種の新規dibenzofuran類を単離,構造決定し,Xanthoria polycarpaとCaloplaca elegansの地衣菌培養からは,計5種のanthraquinone類を単離同定した. 今回,Graphis属とPyrenula属の地衣菌培養から,それぞれ同じ成分を得たことは非常に興味深い.種の違いや採集地域に関わらず,地衣菌の培養においては独自の代謝経路が共通に発現していると考えられる.これは地衣化していない地衣菌にとって,これらの代謝物が生存上何らかの生理的意義を持つことを示唆するものである.今回,単離した代謝物のうち,anthraquinone類,xanthone類についておこなった抗菌活性試験では,いずれも活性を示さなかったが,今後他の活性試験を行い,代謝物の生理的意義を明らかにするとともに,生合成経路や代謝の調節機構を調べることにより,地衣の進化の過程や共生に関して重要な知見が得られるものと期待できる.
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