研究概要 |
我々研究グループは,プロトンポンプ酵素(H^+,K^+-ATPase)及びH.pyloriウレアーゼがともにSH酵素である点に着目し,これら両酵素を強力にかつ不可逆的に阻害することが推測される三置換アレンカルボン酸誘導体をデザイン合成し,その抗潰瘍作用とウレアーゼ阻害活性を検討してきた. 平成9年度,平成10年度の実験により,アレン化合物とSH酵素との反応点であると考えられる中央の炭素のケミカルソフトが低磁場にシフトするほど活性が強くなることを見出した.この傾向は抗潰瘍作用,ウレアーゼ阻害作用に共通していた. 平成11年度は,この結果をベースにして,芳香環に電子的効果の違う様々な官能基を導入した三置換アレルカルボン酸誘導体を合成し,そのSH酵素阻害作用とケミカルシフトとの構造活性相関を検討した.さらに置換基によって光学異性体が存在するアレン分子の構造に着目し,その異性体を合成しそれらの生理活性について検討した.また,三置換アレンカルボン酸誘導体とSH化合物やSH酵素との反応性や反応後の生成物についても検討した. その結果,三置換アレンカルボン酸誘導体の置換基である芳香環への電子求引性の置換基の導入はSH酵素阻害作用を強力にし,電子供与性の置換基の導入では減弱した.光学分割によって得られた光学活性アレンカルボン酸誘導体のSH酵素阻害作用は,S体がR体よりも強力な活性を示した.さらに三置換アレンカルボン酸誘導体は,低分子SH化合物とは反応せず,SH酵素のみ結合することが示唆された.X線構造解析の結果や,抗酸化剤であるBHTがSH酵素阻害作用を有する結果から,SH酵素と三置換アレンカルボン酸誘導体の結合はラジカル付加反応であり,その反応性は,SH酵素のSH基のpKa値によって決まると考えられた. これらの結果から,芳香環に電子求引性の置換基を導入し,光学活性体を合成することで,安定なSH酵素を阻害する医薬品として,三置換アレンカルボン酸誘導体は有力なリード化合物となりうるものと言える.
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