研究概要 |
本研究は,製剤・製法の技術的限界のため従来実施困難であった抗がん剤含有製剤を用いたがん局所化学療法の最適化のための系統的・総合的研究を行うべく,以下の機能を有するがん局所化学療法用マイクロカプセル(MC)製剤の開発を目的とするものである。治療上要求される機能は1)懸濁注射剤の調製とカテーテルを通過して動脈を塞栓するまでの間は薬物放出が起きない遅延放出特性を持ち,遅延時間は制御可能;2)ラグタイム後の薬物放出速度は調節可能;3)一定時間後には粒子自体が分散消失し,血流が回復司能;4)製剤中の薬物含有率は最大30%を確保可能;5)粒子径は30-200μmの範囲で,放出・崩壊・分散消失特性を自在に調節可能;6)多種類の製剤の微量調製が可能なことなど,従来の製剤・製法では極めて実現困難なものである。これに対し,本研究では機械的MC化法である気中懸濁被覆法を採用し,本法によって調製した大豆レシチン(SL),コレステロール(CH),ステアリン酸(SA),ポリビニルピロリドン(PVP)混合被膜からなるMC製剤が上述の機能をすべて兼ね備えることを見出した。また,粉末X線回折,示差走査熱量分析によって乾燥及び水和状態でのMC膜成分の相構造を3成分系相図にまとめ,一連の組成比のもとでの膜相状態とそれに対応する薬物放出・MC分散崩壊挙動を関係づけることによってこれらの機能発現機構を推定し,1-3)の機能を任意に調節するための膜組成を掌握できた。一方,4-6)を目的として異径2成分径希釈法を新たに開発し,本法により薬物含量30%,粒子径106-149μmの抗がん剤アドリアマイシン(ADR)含有レシチン膜MCを数gオーダーで調製できる技術を確立した。本ADR-MCにおいても上述の機能の発現がin vitro試験及びラット肝動脈注入によるin vivo薬物動態試験において確認できた。
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