研究概要 |
本研究の目的は,壁細胞をモデル系として分泌活性化に伴う細胞骨格系蛋白の生理的役割を明らかにすることであった.具体的な目標は,エズリンの機能に関わるリン酸化部位を決定すること,および壁細胞内に蛋白質を導入する系を創出して,その機能を直接解析する道を拓くことであった.初年度において,ヒトエズリンの全長をクローニングし,部分配列をPKA処理したがリン酸化は認められなかった.しかしウサギ胃粘膜精製エズリンがPKAによりリン酸化されることから,配列に種特異性があることが予想された.次に,現在使用されている薬理学的プローブが,壁細胞内シグナル伝達解析に無効であり,透過性細胞系の開発が必須であることを示し,その基礎的検討を行った. 次年度の研究中,協力者の米国Georgia大学Goldenring教授が,ウサギエズリンをクローニングしたが,PKAでリン酸化されるサイトは皆無であり,種特異性では説明できないとの連絡があった.同時期,エズリン自体はPKAではリン酸化されず,胃粘膜にはPKAによって活性化される新規のキナーゼが存在して,これがおそらくエズリンのC末をリン酸化していることを示す結果が得られた.これは,当初計画とは異なるが,はるかに興味深いテーマとして発展し,現在,この未知のキナーゼを同定すべく実験を継続中である.次に,βescinによる透過性胃底腺モデルを作成し,機能ペプチドを細胞内へ導入する系を確立することに成功した.この系を用い,PKAの阻害ペプチドばかりでなく,ミオシン軽鎖キナーゼ阻害ペプチドがcAMP刺激酸分泌を抑制することを見いだした.また,透過性胃底腺モデルを用い,小分子GTP結合タンパク質の機能ペプチドの作用を検討して,これらの関与可能性を示し,壁細胞小胞輸送系における細胞骨格間連蛋白の相互作用を解析する道を拓いた.
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