研究概要 |
HlV-1固有の産物に直接作用する阻害剤等はウイルスの持つ易変異原性のため,耐性ウイルスの出現を容易にし,人類のエイズ制圧の夢を打ち砕いている。そこで,申請者等は細胞性因子に一次的に作用し,その結果,bystander効果(一つの事象が、周囲に影響を及ぼす効果)的にHIV-1を不活性化する生化学的反応を考え,蛋白質のN-ミリストイル(N-Myr)化反応に着目した。N-Myr化阻害剤(N-Myr-GOA)を用いて,HlV-1感染細胞におけるgag蛋白質のN-Myr化を阻害した結果,gag前駆体蛋白質の細胞内蓄積及び娘ウイルスの感染性消失が認められた。また,電子顕微鏡による形態観察により,N-Myr化阻害剤処理感染細胞から不完全ウイルス粒子の出芽像が観察されたことから,N-Myr化は,感染性獲得のための必須の修飾であることを明らかにした。さらに,免疫電顕法による形態観察の結果,bystander効果的なenv蛋白質発現抑制が認められた。 N-Myr化は、原核細胞では認められない反応であるが真核生物では普遍的に存在する極めて重要な反応で生命維持に無機的・基本的に必須である。この反応に基づく情報伝達が阻害されても、別経路で生命を維持する修復機構が真核生物ではととのっている。ウイルスの感染・発現・産生ずる過程において、発現後、直ちに起こる最初の翻訳時修飾がN-Myr化反応で宿主細胞の装置で行われる。このN-Myr化を阻害すると細胞側も障害を受けるが修復機構で正常な情報伝達がなされ、細胞は正常機能を発揮する。しかし、ウイルスはこれにとって変わる修復経路を有せず、その効果が次から次へと伝達され、最終的には遺伝子発現阻止まで到達する(bystander効果)。本研究により,bystander効果剤が画期的な抗エイズ剤になりうることを明確にした。
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