研究概要 |
【qkI遺伝子機能解析】前年度、ジーンターゲティングの手法を用いてqkIノックアウトマウスの作製し、qkv変異マウスとの遺伝的相補性試験を行いqkI遺伝子がquaking変異の原因遺伝子であることを証明した.さらにこの2重へテロ接合体(qkIKO/qkv)は元々のqkvホモ接合体に比べ強度の障害を示すことを明らかにし,遺伝子発現量依存的に神経学的症状が現れると考えられた.そこで,この点を検証するためにqkI遺伝子全体を含むBACクローンを導入したマウスを作製し,変異マウスと交配し,表現型の回復が起こるか否かを検討した.その結果,実際に顕著であった振戦や成長障害は回復し,生殖,出産も可能になった.BACトランスジーンの導入により,調べるかぎりすべてのqkI転写産物の発現レベルが増加していることも確認された.このことからqk変異マウスにみられる表現型はqkI発現量の低下に原因するものであり,これを補えば正常な形質を持ちうることが明らかになった.しかし,これらのBAC導入により振戦が回復した複数のマウス個体を観察したところ,振戦,成長障害は回復するものの,痙攣やてんかん様発作を示すことを見いだした.このことは振戦と痙攣を引き起こす原因,あるいはその機序は異なることを示唆するとも考えられる. 【qk変異体におけるミエリン形成過程の解析】 qkI遺伝子変異によりミエリン形成のどの段階が最も影響を受けているか調べるため,MAG(myelin associated glycoprotein),PLP(proteolipid protein),MBP(myelin basic protein)等のミエリン蛋白の発現解析を行った.PLP,MBPに関してはメッセージの発現量は+/+の20-40%程度であったが,蛋白レベルでは激減しており,正常の数%でしかなかった.減少の程度はqkIKO/qkvにおいてより顕著であった.また,MAG,PLP,MBPの各アイソフォームの発現を正常マウス,変異マウスで比較したところ,PLP,MAGでは特定のアイソフォームの欠損が認められた.このような異常はqkIがRNA結合蛋白であることを考えるとqkIがこれらミエリン形成に必須の遺伝子のスプライシングを制御している可能性を示唆するものとして大変興味深い. また,qkI発現細胞の数自体は変異マウスと正常で大きな違いはなく,ミエリン形成の開始にいたる分化過程に異常があるものと考えられた.電顕像を見ると、オリゴデンドロサイトが周囲に突起を伸ばすが、正常に軸索に巻き寸いていくことが出来ておらず、まさにミエリン形成の開始段階から障害されていることが明らかになった.したがって、qkvホモマウスの表現型から推察されるよりさらに早期からqkIは重要な働きをしていることが判明した.
|