研究概要 |
環状オリゴ糖シクロデキストリン(CyD)が大腸内細菌叢の酵素作用により少糖類へ分解されることを利用して新規大腸送達システムを構築し,それらの製剤学的評価を行なった.なお,モデル薬物に潰瘍性大腸炎などへの適用が期待される非ステロイド系抗炎症薬ビフェニル酢酸(BPAA)を用いて基礎的検討を行い,所期の目的を達成することができた. 1) α-,β-,γ-CyDsの6位1級水酸基の1個にBPAAをアミドあるいはエステル結合させた6種類のBPAA/CyD conjugatesを調製し,化学構造,物性,生分解特性などを明らかにした.たとえば,各conjugatesの水への溶解度をBPAAと比較すると,α-およびγ-CyD conjugatesではそれぞれ約100倍および10倍増大し,β-CyD conjugatesの場合は逆に約1/10に減少した.BPAA/CyD ester conjugatesはラットの胃・小腸内容物,小腸・大腸粘膜ホモジネート,肝臓ホモジネート,血液中ではBPAAを放出しなかったが,盲腸・大腸内容物中では速やかにBPAAを放出した. 2) CyD conjugatesをラットに経口投与後の血清中BPAA濃度推移を薬物単独およびBPAA/β-CyD複合体の場合と比較すると,BPAA単独および複合体投与では血中BPAA濃度が速やかに上昇した.一方,α-およびγ-CyD ester conjugatesでは,経口投与後2〜3時間のラグタイムを経て血中薬物濃度が上昇しBPAAの吸収率はBPAA単独および複合体投与に比べて著しく増大した.一方,難水溶性のβ-CyD conjugateの場合は血中BPAA濃度が著しく低かった. 3) γ-CyD ester conjugate投与時の抗炎症作用をカラゲニン誘発足蹠浮腫ラットモデルを用いて評価した結果,BPAA単独投与時の抗炎症効果はほとんど観察されなかった.一方,速溶解性のBPAA/β-CyD複合体は投与0.5〜1時間後に抗炎症効果を発現し,γ-CyD ester conjugateの場合は12時間後に大きな抗炎症作用が観察された. 上述の実験結果から, BPAA/CyD conjugatesは盲腸・大腸内で選択的に薬物を放出することが確かめられた.特にCyD ester conjugatesは遅延放出性プロドラッグとして機能し,経口投与における新規大腸送達システムとして他の薬物へも有効利用が期待される.
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