研究概要 |
以前にκ-オピオイド受容体のアゴニストが,コリン作動性神経系の機能低下に伴う学習・記憶障害を改善することを報告してきた.本研究では,コリン作動性神経系の機能障害を伴う学習・記憶障害モデルを用い,κ-オピオイド受容体アゴニストの学習・記憶機能に対する作用について検討した. 1) マウスやラットにcarbacholを受動的回避学習の訓練試行前に投与すると,学習・記憶が障害された.Dynorphin A(1-13)やU-50,488Hは,この学習・記憶障害を有意に改善した. 2) Carbacholを海馬内に灌流するとアセチルコリン濃度が有意に減少した. Dynorphin A(1-13)は有意にこの減少を抑制し,この緩解作用は,κ-オピオイド受容体アンタゴニストにより拮抗された. 3) U-50,488Hは,scopolamineやmecamylamineによる学習・記憶障害を改善したが,(+)-MK-801による学習・記憶障害を改善しなかった.Mecamylamineの投与により,アセチルコリンの遊離が減少したが,U-50,488Hはこの遊離減少を抑制し,この作用はκ-オピオイド受容体アンタゴニストにより有意に拮抗された. 4) 一酸化炭素を負荷されたマウス脳において,アセチルコリン含量,基礎遊離量およびChAT活性には,変化は認められなかった.高カリウム刺激によるアセチルコリン量は,一酸化炭素を負荷した海馬切片で,有意に低値を示した. 以上の結果より,κ-オピオイド受容体アゴニストは,コリン作動性神経系の神経伝達障害により惹起される学習・記憶障害を改善するが,NMDA受容体アンタゴニストによる学習・記憶障害には改善作用を示さなかったことから,興奮性アミノ酸作動性神経系ではなく,コリン作動性神経系の神経伝達障害を改善する作用がある可能性が示唆された.
|