研究概要 |
遺伝性球状赤血球症患者(36例)を対象にして、ankyrin遺伝子のプロモーター領域および全エクソン(エクソン1-エクソン42)の遺伝子変異を解析した。このため46対のプライマーを合成し、36例の患者についてそれぞれの遺伝子領域をPCR法にて増幅後、SSCP法にて変異の有無をスクリーニングした。異常なSSCPパターンを呈し変異の存在が疑われる領域については、検出されるたびにDNAシークエンシングによって変異を同定し、また制限酵素を用いた解析により変異の存在を確認した。その結果、19種類のankyrin遺伝子変異を見い出した。これらの内訳は、2種類のナンセンス変異、6種類のミスセンス変異、1種類の塩基欠失(イントロン内8塩基)、1種類のイントロン内塩基置換、および9種類のサイレント変異であった。2種類のナンセンス変異(E886X : GAG-TAG,K1140X : AAG-TAG)は今までに報告のない新しい変異で、ankyrinの産生低下により細胞骨格蛋白の膜へのassemblyが障害されHSを惹起するものと推定された。6種類のミスセンス変異については、単なるpolymorphismであるのか、病因となる変異であるのかさらに検討が必要であるが、変異蛋白の分子不安定性や機能異常によりHSを惹起する変異が含まれていると考えられた。特に、3例がホモ接合であったミスセンス変異(I1075T : ATC-ACC)については、Eberらも同一変異をもった症例を報告しており、病因と関連した変異である可能性が強く示唆された。今後さらにankyrinの発現と機能解析についての詳細な検討が必要である。 Ankyrin遺伝子異常に基づくHSは、最近欧米で報告例が多いが、我が国でも10-20%程度存在するものと思われ、本症の主要な病因の1つであることが明らかとなった。
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