研究対象は、都内の総合病院の神経内科に入院し、看護者から痴呆と呼ばれる平均年齢75.8歳の高齢患者7名(女性4名、男性3名)と、これらの患者に関わった平均年齢28.5歳の看護者18名であった。 高齢患者の言動パターンへの看護者の認識過程は、<不確かさから確かさへの移行>と<意思の探索>の2つの過程があった。(1)不確かさから確かさへの移行:看護者は、患者の言動の変化を<手がかり>とし、その変化に対する疑問を患者に質問をすることで<疑問解決のための確認>を行い、それを繰り返しながら手がかりの意味を推察し、また新たな情報を得ることで<推察の確認>を行っていた。このような過程を通して、患者の意思に対する看護者の確かさが、患者の援助を<決定>する際に大きく影響していた。(2)意思の探索:患者の<意思の探索>は、<指示への意思の見極め>、<不快の見積もり>、<意思決定の把握>、<内的体験の理解>の4つの局面から構成されていた。<指示への意思の見極め>は、ケアの中で患者が可能な身体動作を指示して患者の意思を見極める過程である。<不快の見積もり>とは、患者の痛み等の不快の存在を患者の言動を手がかりに推察、確認していく過程である。<意思決定の把握>は、患者がどうしたいのかという意思を患者の言動から推察し、患者の意思に基づいた決定を行う過程である。<内的体験の理解>は、患者が妄想や作話を語り始めた時に患者が言おうとすることを確認しながら再構成して理解する過程である。 日常的ケアにおける痴呆と呼ばれる高齢患者と看護者との相互作用では、高齢患者の言動を通して看護者が認識しようとしていたものは、高齢患者の意思であった。患者の意思の探索は、看護者が高齢患者と関わる上での中心的な概念であり、患者の意思に対する不確かさを確かさへ近づけようとしていたことが明らかとなった。
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