2年間の本研究で明らかになったことは、まず人が食べ物を摂ったときに生ずる生理活動の変化についてである。炭酸飲料を飲むことは心拍数を上昇させ、交感神経活動を増大させることが分かった。また食事をとる速さも交感神経活動に影響し、早食いは交感神経活動を増大させ、脳波のβ波領域(緊張)を増すことが示された。そのような基礎的な観察結果を基に、食事の仕方、特にストレスが食物の消化管(小腸)通過時間に及ぼす影響について次いで検討した。食物の消化管通過時間は乳糖を含む食事をした後、呼気中に排出される水素ガス濃度を測定することにより推測した。その結果、呼気中水素ガス濃度の上昇パターン(食事中の非消化性糖質が大腸に達し始め終息する時間)には、大きく2つのパターンがみられ、また、前日最後の食事を摂った時間から翌朝呼気中に水素ガスが観察されなくなるまでの時間は、平均12時間50分であることが分かった。これらの結果を基に被験者を選定、実験条件を設定して、本研究課題である食事の仕方=主にストレス=が食物の消化管通過時間に及ぼす影響について検討した。その結果、生理的指標には影響を与えない程のリラックス-ストレス条件下の違いにもかかわらず、ストレス時の方がリラックス時よりも食物の消化管(小腸)通過時間が短く、また消化が抑えられることが示唆された。 今後の課題としては、被験者が実験自体にストレスを感じない人工環境中で実験前日から食事、生活等コントロールした条件下で、自律神経活動など生理指標に影響を与える程のストレスの下での消化管通過時間とリラックス時のそれとの比較、検討から食事環境の消化、吸収への影響を更に詳細に明らかにできると考えられる。
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