研究概要 |
高齢化現象がますます深刻化する現況において、骨粗鬆症患者の急激な増加とともに骨折が医療上の大きな問題として注目されている。特に、中高年者の脊椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折は、骨折後に歩行能力などのADL(Activity of Daily Living)の低下やQOL(Quality of Life)の低下を招くことが懸念される。従って、骨粗鬆症およびそれに伴う骨折の予防には骨密度とともに筋力も重要な関連因子と考えられる。そこで、本研究では、骨量減少が顕著であり最も骨折の発症率の高い年代である健常な中高年女性に対象を絞り、骨折予防を目的として、腰椎・踵骨・大腿骨骨密度(DXA法),大腿部筋厚(超音波Bモード法)および骨代謝マーカーの1つである尿中free-deoxypyridinoline(以下free-Dpyr)の関連性および日常活動量の影響等について横断および縦断的検討を行った。1997年において(健常中高年女性47名:平均年齢65.6±7.5歳,Mean±SD)、骨密度は、全ての部位で、年齢との間に負の相関を示し、特に踵骨,大腿骨War'd・Neckは有意な減少を示した。大腿部筋厚(前部)は、年齢との間に有意な負の相関、全部位骨密度、体重および体格指数との間に有意な正相関が示された。1998年では、1)1年間の縦断的検討(昨年と同対象者)の結果、骨密度は、腰椎,踵骨,大腿骨いずれの部位も1年後低値を示し、特に大腿骨・Trochは有意な低値を、大腿骨・Neck,踵骨骨密度は低値傾向を示した。大腿部筋厚は、1年間で平均15.2%の有意な減少がみられ、中高年女性では1年間で筋肉量が著しく減少する可能性が推察された。また、骨吸収マーカーの1つである尿中free-Dpyrは有意ではないが1年前に比し、高値を示した。さらにfree-Dpyrの年間変化量と骨密度変化量との偏相関分析の結果、有意ではないが踵骨・第4腰椎・大腿骨ward's三角の年間変化量が、それぞれ10.6%,10.6%,11.3%の危険率で負の相関を示した。2)日常活動量の影響(横断的検討:健常中高年女性109名)の結果、腰椎・踵骨骨密度において、日常活動量の高い運動群は日常活動量の低い対照群に比し、有意な高値あるいは高値傾向を示した。また、日常生活における意識に関するアンケート調査の結果、食生活および身体活動に対する意識において、運動群は対照群に比し有意な意識の差が示された。以上より、中高年女性においては、骨密度とともに大腿前部筋厚も加齢による減少が、特に踵骨・大腿骨骨密度とともに大腿部筋厚の年間減少量が著しいことが示された。さらに尿中free-Dpyrの年間変化量が高値の者ほど骨密度の減少量が大きい可能性も示唆され、個々に対する骨折予防のための骨量減少抑制には、骨代謝マーカーの測定値をも加味した、また筋力維持をも考慮した骨粗鬆症・骨折予防のための保健指導、さらには日常活動量および常生活における食生活や身体活動に対する意識の向上を図ることも重要であることが示唆された。
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