研究概要 |
加熱調理の実態を定量的に把握し,食材の種類や加熱操作に特異な熱移動現象を可及的に一般化するため,食材の「複雑な成分因子」と調理器機の「多様な加熱操作因子」とについてそれぞれモデル系を設定し,加熱による食材内部の温度変化を測定・解析することを試みた。得られた結果は,次のように要約される。 1. 食材中の水分を加熱調理における重要な成分因子の一つと考え,小麦粉とココア粉末の当量混合物を任意の混合比の水とコーン油からなる液相中に分散させ,一定の形状を保持させながら水分量を約7%〜50%の範囲で任意に制御し得る一連の食材モデル系を調製し得たので,その熱拡散率と水分量との関係を測定した。 2. 加熱操作のモデル化のため,加熱面から垂直の一次元方向へ0mm,1mm,3mm,5mmの各位置での温度変化の追跡可能な加熱装置を,金属壁を介して食材を加熱する間接加熱,および一連の熱媒体に食材が接する直接加熱の場合についてそれぞれ試作した。後者の熱媒体には加熱水蒸気,沸騰水,加熱コーン油,加熱空気を用いた。各加熱装置は,試料内部の温度上昇速度,試料の相変化による熱伝導形式の遷移等の情報を再現性良く与える。 3. 対象試料の種類や水分量,あるいは上記加熱法の違いを越え,観測された試料内各部の温度上昇曲線は,熱移動に遅延現象が伴うとして新規に導出された指数関数形式に,いずれも良く適合することを見い出した。 4. この指数式に現われる定数は熱移動の遅延時間に相当し,試料加熱面からの距離の関数であるが,その距離が一定の場合,本加熱実験の対象とした上記食材モデル系や数種の実用食材にそれぞれ固有の熱物性値である熱拡散率と指数式の定数との間に密接な関係が存在することが実験的に確められたので,これを定式化することにより,加熱調理に際し食材内部の加熱面近傍に生じる温度変化の予測が可能であるとの結論が得られた。
|