研究概要 |
本研究の課題は、選手と支援スタッフのあるべき関係性について、バイオエシックスの見地から考察を加えることである。その結果、未来のスポーツ世界(実践,指導,研究を含めて)は,決定主体を,指導者や研究者から選手,被験者自身に転換し,実質的インフォームド・コンセントに基づいて自己決定する環境を創り挙げることが重要であり,それが開かれたスポーツ世界を保証することになると結論づけられる。従来の体育・スポーツ界のパターナリズムに基づく他者決定が限界に来ていることや、バイオエシックスの諸原則重視の趨勢から、自律・自立や問題解決能力を涵養する多くの機会を決定主体に与えることによって,選手と支援スタッフ間の諸問題を内部から改善していく方向性が求められる。その際,科学技術の進歩と支援スタッフの倫理性とが不均衡になることを防止する上で,第三者から構成される審査機関の設置が必要である。これが,従来の閉鎖的な指導環境,研究環境を開放するという意味での「開放性」原則の導入である。バイオエシックスの重要なキー概念である「インフォームド・コンセントに基づく自己決定」原則,および自己決定を補完する意味での「開放性」原則の導入によって,スポーツ世界の内部変革が期待できるであろう。しかし,今後,これらの原則が導入されて具体的に制度化され、それらが遵守されなければ,未来の体育・スポーツ界は,必ずや内部から崩壊することを予言して,本研究の課題を閉じる。
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