研究概要 |
本研究の目的は,過去100年間の気象観測値によって示される年降水量と年平均気温の変化が年流出量と年流出率にどのような影響を与えているかを,メソ・スケールの河川流域を単位として定量的に把握し,温帯湿潤気候下に位置するわが国の代表的な河川を対象に水収支の比較検討を試みることにより,その地域特性を明らかにすることである。長期的・平均的水収支の算出にあたり,基礎資料となる年蒸発散量の値はThornthwaiteの方法により求めた。 平成10年度に実施した研究の概要,および新たに得られた知見と成果は以下のとおりである。 1. 一級河川である木曽川・長良川・揖斐川と鈴鹿川の流域を対象に,水収支の長期変動傾向を明らかにするため,面積年降水量・面積年蒸発散量,および両者の差として得られる年流出量の経年変化の特徴を,1895年〜1996年の102年間について6年単位の反復移動平均値,および標準偏差を用いて解析した。 (1) 年降水量は1980年代後半より平年値を下回る傾向が継続しており,平年値からの偏差と10年単位の標準偏差は1960年代から増加を続けている。 (2) 1960年以降,年降水量の極大・極小に関する生起頻度の短縮と変動幅の拡大が認められる。 2. 流域の年降水量が過去102年間で最小値を記録した1994年について,木曽三川の河川水質の周年変化に関し検討した結果,溶存酸素濃度の低下とBODの増加に代表される水質の顕著な悪化が認められた。 3. 過去の典型的な渇水年における流出形態の差異を水文気象条件の異なる流域について比較検討することは,温暖化に伴う水文環境の変化を予測する上で重要であり,本研究の成果を今後さらに発展させていく計画である。
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