研究概要 |
これまで教授―学習過程に関する教育研究は,ややもすれば認知領域の学習について行われており,精神運動領域あるいは情意領域の学習については十分な検討が行われてこなかった。そこで,本研究は精神運動スキルの教授―学習過程において教授行為が及ぼす効果を実験的に明らかにすることを目的とした。精神運動スキルの素材として,本研究では,1998年12月に告示された新学習指導要領の体育に導入された予定の「体ほぐし」を取り上げた。本研究では,まず体ほぐしの教育目標について文献的な検討を行った。その結果,体ほぐしは何を目的として実施するのかという教育目標の問題についても,教育研究者間で意見の不一致が認められた。しかし,体の力を抜くこと,つまりリラクセィションを目標に含むという点については研究者の考えに共通点が認められた。そこで,実験的研究においては,リラクセィションを教えることが,姿勢にいかなる影響を及ぼすかを検討した。まず,被験者の安静時の作業時の座位姿勢における姿勢の歪みを三次元的に測定した。この三次元測定により,体幹部のねじれを定量的に測定することができる。次に,体ほぐしの体操を実施し,その効果が安静時と作業時の座位姿勢に及ぼす効果を検討した。その結果,短時間のリラクセィションによっても,姿勢の歪みが改善する被験者が存在することが明らかにされた。長年蓄積されてきたくせであっても,リラクセィションによって,学習者は彼自身の姿勢の歪みに気づくことができることを示している。以上の実験的なデータに基づき,学校教育の中に子ども達が心地よいと感じる体験,すなわちリラクセィションを組み込むことが教育効果を持つことが結論できた。
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