研究概要 |
児童の視力低下の割合は,年々,増加・若年化する傾向が認められる。テレビゲームやパソコン通信、CAI学習など児童を取り巻く視環境の変化、近視作業の量・質の変化が、日常的な眼疲労、眼精疲労として蓄積し、視機能の発達過程にある児童への過度な生理的負担となっていることがその背景として挙げれる。一方,日本家屋において調光をつかさどってきた障子は,奈良時代に中国から伝えられて以来,日本家屋の進化と共に形態を変え,その採光,温熱的調和に役立てられてきた。 本研究は、その第1段階として、東京都学校環境衛生基準の改定のための基礎調査を行うことから出発した。その結果、教室内視環境の問題点として、例えば,カーテンからの木漏れ日がもたらす同一机上の照度差や不均衡な照度・輝度分布,あるいは児童生徒の眼精疲労や不快感などが明らかになった。第2段階として、教室の壁および床材の質に対して児童がどの様に評価するかを,壁材に杉板を用いている教室とコンクリート白塗りの教室とで比較,検討した。気象条件や机の配置など条件統一がとりにくく,一概に評価できないものの,杉板教室の児童はコンクリートの教室で生活する児童と比較して,壁・床材について評価する傾向が認められた。また杉板教室の場合,コンクリート壁の教室と比較して,机上輝度が緩和される傾向が認められた。 次に,部屋の調光器具として,古くから家屋で用いられてきた障子に視点をあてて,その教室への導入を試みた。まず,障子の機能とそれに用いられる和紙の機能について文献収集を行うとともに,和紙の生産工程について,山梨県市川大門町の豊川久雄氏の工房を訪問し,その生産工程を見学することから研究を始めた。また,モデルルームにおいて障子の日射光に対する拡散効果について明らかにし,教室に導入できるかどうかを検討した。最後に東京学芸大学附属S小学校に障子を導入し,机上照度および輝度,児童の自覚症状と障子に対する主観的評価について調査した。その結果,障子を導入すると教室内照度が高い状態で,机上輝度を押さえることができ,またカーテンを用いた場合のような,スポットライトの出現もなく,児童の反応についても良好であることが明らかにされた。しかし,教室の解放性が損なわれること,教室内温度の上昇がみられ、児童の一部については不快感を示すなど,課題も多くみられた。 今後は,障子の導入方法について、再検討すると共に,これらの結果を用いた保健学習教材として、また「眼」、「健康」、「環境」等をキーワードとした、総合学習プログラムとして、教育実践授業の展開を試みることを課題としたい.
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