研究概要 |
本研究の目的は、(1)大正、昭和初期の英語教育の全体像をパーマー教授法との関係において明らかにすること、および(2)パーマーの教授法と日本英語教育界の相互影響関係を分析することである。(1)の目的にために、パーマーの活動、業績の年表の形でまとめ、これと対応させて日本の英語教育状況を年表の形で整理した。このことにより、パーマーの英語教授法の日本における展開が、日本英語教育史のパースペクティブの中に位置付けられ、パーマーの業績を日本的状況の中で評価するための基礎的条件が整った。(2)の目的のために、パーマーの教科書と当時の検定教科書とを比較分析した。分析に用いた資料は次の8点である。(1)Charles J. Bames著National Readers(1883,4)、(2)文部省著『正則文部省英語読本』(1889)、(3)岡倉由三郎著The Globe Readers(1907)、(4)熊本謙二郎著New English Drill Books(1907)、(5)増田籐之助著The International Readers(1915)、(6)神田乃武著kanda's Crown Readers(1916)、(7)竹原常太著The Standard English Readers(1932)、(8)Harold E. Palmer著The Standard English Readers(1926)。以上の資料を次の視点から質的分析を試みた。(1)教科書のねらいと構成(2)各巻の内容と構成を題材内容、語彙、文法他、の視点、および(3)総合的評価。得られた結果は次の3点である。(1)題材は物語、文学、哲学、韻文など芸術性の高いものから散文中心の説明文へと変化している。その中でもパーマーの教材はこの傾向が一番強い。(2)一般的に英語は話し言葉で平易な文体に変化しているが、パーマーの教材はより一層その傾向が強い。(3)パーマーの教材はこれ以前のものは極端なほど話し言葉中心の平易な文体であったが、ここでは非常に難解な読み物も大量に採用されている。これはパーマーが日本の影響を受けたものと推測される。
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