研究概要 |
従来,表現運動・ダンスの学習では,フォークダンス(日本の民踊を含む)と表現・創作ダンスは,それぞれの目的も異なることから,すべての発達段階において区別して扱われてきた。このような中で,「創作」を舞踊文化の“伝承"と“創造"の両極に向かうベクトルの出発点に位置づけ,郷土芸能を学習材に創作を行う今回の試みは、伝承学習に対する創作学習の側からのひとつのアプローチになるものと考えた。そこで初年度は、まず宮崎県の高千穂夜神楽を題材にダンス課題学習を行い,この新たな試みが学習者の美的創造的体験を広げることを実証した。併せて県下の小学校にアンケート調査を実施し,本県の学校教育における郷土芸能の実態-年々減少する実践数とその減少が指導者の郷土芸能の学習に対する思い込みによること等-を明らにした。続く次年度は、提案した学習が,子どもたちの身体表現の可能性を拓くと同時に、郷土芸能を伝承していきたいという思い(の芽)を育むことを,広く県内の指導者に伝えることを目的に,各発達段階に合わせた教材づくり(何のために,郷土芸能の何を,どのように学ばせるのかを明らかにする)と授業研究を行ない,その学習成果(作品)を公開・報告した。また県内の郷土芸能の実態についても聞き取り調査を行い,併せて保存会や伝承者が,郷土芸能を題材とした創作学習に対して,指導者が考えている以上に好意的であることを明らかにした。 以上のことから,郷土芸能は「創作」学習を豊かにする新たな学習材であり,すべての発達段階において,郷土芸能からダイレクトに感じたことや発想したことを表現する字習=郷土芸能の本質から大きくはずれることなく近似値を体験する学習であることを実証するに至った。今後は,本研究のテーマを継続して追及する中で,日頃この表現・創作ダンス学習で強く感じてきた,“なぜ子どもたちの表現に「地域」が感じられないのか"(住む地域が違えば,共通の時間を生きていても,イメージ=動きは異なるはずである)についても探っていきたい。
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