研究概要 |
本研究は人工市場モデルという新しいエージェントベースの外国為替市場のモデルを構築した.本モデルにより既存の理論ではうまく説明できなかった現実の市場におけるいくつかの創発的現象を解明することができた.本研究は実際の市場のフィールドワーク,マルチエージェントモデルの構築,市場のコンピュータシミュレーションから成り立っている. フィールドワークでは,約30名のディーラーに対して,実際の意思決定現場における情報の種類,予想形成の方式,学習のメカニズムに関するインタビューや質問紙調査を行ない,得られたプロトコルデータを認知科学の学習理論の知見から分析を行った.その結果,為替ディーラー個人の意思決定において,予想期間による予想方式の違いや,他人の予想方式の模倣などのディーラー間の相互作用が存在することが明らかになった. フィールドワークより明らかになったディーラーの学習の特徴を考慮し,遺伝的アルゴリズムと呼ばれるコンピュータアルゴリズムを用いて,生物の進化過程との類似性から,各ディーラーの予想方式の変化を記述する市場モデルを,マルチエージェント・アプローチに基づき,計算機上に実装した. 本モデルの計算機シミュレーションの結果より,現実の市場に見られた4つの創発的現象のメカニズムを提唱することに成功した.先ず,1990年代初頭と1995年の為替レートのバブル現象を解析した結果,これらの時期のバブル現象は,市場参加者のチャートトレンドに対する同調行動と意見の強い収束によって説明できた.また,レート変動と取引高の負の相関,レート変動の頻度分布の特徴,コントラリーオピニオン現象などの創発的現象は予想の多様性の相転移という概念で説明できることが分かった.
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