研究概要 |
本研究で提案している磁場ゼロの後進波発振器(PASOTRON)は,磁場コイルが不要であるという実用面での利点に加え,チェレンコフ共鳴と遅波・速波サイクロトロン共鳴が縮態した相互作用を利用しており,物理的にも興味のあるテーマである。 線形解析により軸対称モードと非軸対称モードの分散関係を導出し,磁場零におけるチェレンコフ・サイクロトロン縮重相互作用について調べた。軸対称の場合は,TMとTEモードは独立で,後者による不安定性は起きない。TMモードではチェレンコフ・サイクロトロン縮重相互作用による不安定性が確認された。この不安定性による時間的成長率は,弱い相対論的エネルギーの大電流電子ビームに対してガイド磁場かある場合に比べて大きくなる。非軸対称の場合は,固有モードはTMとTEモード成分より成るHEとEHハイブリッドモードである。これらのハイブリッドモードは電子ビームとチェレンコフ・サイクロトロン縮重相互作用し成長できる。 磁場零で大口径遅波導波管を用いたPASOTRON実験を行い,チェレンコフ・サイクロトロン縮重相互作用によるマイクロ波発生を調べた。ビームによる中性ガスの電離で伝搬に必要なプラズマを生成する。印加電圧50kV程度,ビーム電流は100A程度である。マイクロ波出力に適した中性ガス圧が存在する。発振周波数は20GHz帯であったが,発振電力は最大でも1kW程度と見積もられ,磁場を用いた場合に比べて2桁以上低かった。磁場零ではビーム形状が制御できておらず,管壁より離れた位置を伝搬しているためと思われる。発振モードは,軸対称TM成分と非軸対称TE成分が確認された。これらのマイクロ波発生は,本研究の線形解析により,ハイブリッドモードとビームとのチェレンコフ・サイクロトロン縮重相互作用で説明が可能である。
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