研究概要 |
自動喫煙装置を用いてマウスにタール15.2mg,ニコチン1.5mgのタバコを1日、20本、10日間、連続して喫煙させた後、気管支肺胞洗浄により、肺胞マクロファージを採取し、肺胞マクロファージの細胞形態的変化、肺胞マクロファージ機能として、抗原提示機能をMHCの異なるマウスの脾臓リンパ球混合試験により解析し、脾臓リンパ球のConA及びLPS反応に対する影響、細胞表面抗原の発現、貪食機能、活性酸素産生機能、サイトカインmRNA遺伝子レベルの発現、p53癌抑制遺伝子への影響、肺組織のDNA遺伝子レベルへの影響及び癌細胞の肺転移とICAM-1の発現への影響を非喫煙マウス群と比較検討した。タバコ(タール15.2mg,ニコチン1.5mg)喫煙により、肺胞マクロファージは、非喫煙に比べて、喫煙により大型化し、細胞内部に空胞変性が認められ、Dot plot解析により、FSCとSSC値の増加が認められ、喫煙により細胞内部構造の複雑化が認められた。また、細胞内の自動蛍光の強度が喫煙により強まることが認められた。さらに、肺胞マクロファージの細胞表面抗原である、Mac-1,B7-1,ClassII抗原の発現が抑制され、IL-1β、TNF-αのmRNA発現も抑制された。これらの成績から、喫煙による肺胞マクロファージの抗原提示機能への影響について検討を加えると共に、ConA,LPS反応への影響についても検討した。肺胞マクロファージの抗原提示機能は、非喫煙群に比べて、喫煙群の肺胞マクロファージ添加により、リンパ球の増殖反応は抑制され、喫煙により肺胞マクロファージの抗原提示機能が影響を受けていることが認められた。また、ConA及びLPS反応に対しても、非喫煙群の肺胞マクロファージ添加に比べ、喫煙群の肺胞マクロファージ添加により、ConA及びLPS反応の抑制が認められた。肺胞マクロファージの抗原提示機能、リンパ球のConA及びLPS反応に対する肺胞マクロファージ機能が喫煙により抑制・低下することが認められた。その抑制機構について解明するため、喫煙による肺胞マクロファージの活性酸素産生への影響と遺伝子への影響について検討した。活性酸素産生機能はHE,DCFHを用いて反応後、FACSにより解析した。肺胞マクロファージのO_2^-産生は、非喫煙群に比べて、喫煙群の肺胞マクロファージで増強されていることが認められたが、H_2O_2産生に関しては、両者間で変化が認められず、肺胞マクロファージの活性酸素産生の種類により、喫煙による影響が異なることが解明された。この成績から、喫煙による肺胞マクロファージの抗原提示機能、リンパ球のConA及びLPS反応に対する肺胞マクロファージ機能の抑制に、喫煙により産生増加されたO_2^-により、肺胞マクロファージ機能が傷害された結果、これらの反応の抑制が引き起こされた可能性が示唆された。喫煙により肺胞マクロファージからのO2の産生増強が認められたことから、このO2により肺組織への遺伝子への影響を8-OHdGを指標に検討したところ、喫煙群の肺組織のDNA中の8-OHdG量が増加していたことから、喫煙により肺組織の遺伝子の損傷が引き起こされていることが示唆され、今後、更に喫煙による個々の細胞の遺伝子DNA損傷についての詳細な検討が必要である。また、発癌と関係している、癌抑制遺伝子p53のmRNA発現が、喫煙により低下していたことから、喫煙による発癌過程に、DNA損傷とp53の発現低下が関与している可能性が考えられ、喫煙は遺伝子レベルに対しても影響を及ぼしていることが認められた。癌細胞の肺転移に対する喫煙の影響は、癌細胞の肺転移による平均生存日数が、喫煙により短縮する傾向が認められ、喫煙による肺転移が促進され、その原因の一つに喫煙により肺の毛細血管の内皮に接着分子のICAM-1の発現増強が引き起こされることによる可能性が示唆された。
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