研究概要 |
近年,天然物全合成の分野では高度に酸素官能基化された多環性ジテルペン類が大きなトピックスの一つである.これらジテルペン類の中には顕著な生理活性を示すものも多数知られており,効率的な全合成が強く望まれている.しかし,いずれの化合物も入り組んだ炭素骨格に酸素官能基が多くあり,全合成は大変難しい.直截で汎用性の高い環形成法が開発できれば,これらジテルペン類の多環性骨格が簡単に構築できると思われる.報告者は二ヨウ化サマリウムによるカップリング反応がこの目的に大変適していることを見出した.たとえば,水酸基やアセトキシル基の隣接基関与をうまく使うと,二ヨウ化サマリウムによる環化反応を自在に立体制御できる.この立体制御法は色々な炭素骨格の構築に使える.特に,グラヤノトキシンの全合成ではこの方法を駆使し,炭素縮環系を効率よく形成した.ところで,このタイプのジテルペン類の中には中員環構造を持つものが少なくない.中員環の閉環は渡環相互作用などのため大変困難で,このようなジテルペンの全合成では,中員環を如何に効率よく作るかが最も重要な課題の一つである.報告者は二ヨウ化サマリウムを用いる極めて効率的な中員環閉環反応を見出した.この環化反応には高希釈条件が必要ないという優れた特徴があり,種々の8員環,9員環,10員環を大変簡便に環化することができる.たとえば,ビニグロールの8員環構造を効率良く形成した.
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