研究概要 |
蛋白質の動的構造は立体構造とともにその機能を考える上で重要である。そこで本研究組織ではジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を題材に、蛋白質の動的立体構造の解明を目指した研究を行った。DHFRの結晶化条件はBMCDなどのデータベースには登録されておらず、またKrautらの論文による方法でも再現性がないため、その条件探索に時間を要した。まず放射光による白色X線を用いたラウエ回折実験を行った。一般に様々な波長を含む白色光では蛋白質結晶を崩壊させてしまう場合が多い中,いくつかのDHFR結晶では,白色光照射でも結晶の崩壊が起こらず,時分割ラウエ法に適した結晶であることが判明した。また時分割ラウエ法には結晶学的技術のほかにも化学的制御や蛋白質の物性が重要であり,本研究では特に揺らぎに着目した立体構造と物性の相関を中心に研究を行った。その1つとしてDHFRの揺らぎの大きなループにあるGly67の変異体を作成し,結晶化してX線解析を行った。また断熱圧縮率の測定は67位の他121位,145位変異体についても行ったが,特に67位についてはX線解析から得られる分子内キャビティー体積の総和と圧縮率との間に置換したアミノ酸の種類においてよい相関を見出すことができた。またキャビティーの分布には,導入したアミノ酸残基の種類による違いが明らかに現れており,わずか1アミノ酸置換による圧縮率やTm等の物性の大きな変化はキャビティー分布の違いによる遠距離相互作用のためと考えられる。実際,121位と67位での二重変異体の活性に加成性がないことから28Åも離れたこの2残基間に遠距離相互作用が存在することが示された。また揺らぎに対して温度は重要な因子であるため,最も結晶性のよかったG67A変異体を用いて130Kと190Kでの低温X線解析を行った。その結果、冷却により温度因子(ゆらぎ)は全体的には収まるが、その収まり方は決して一様ではなく,特に分子表面の柔軟なループ領域で顕著であること、また反応時にシフトすると考えられているαCヘリックスは冷却してもなお揺らぎが減少しないことなどが新たに判明した。変異体の立体構造や低温構造から得られたこれらの動的構造の知見は、柔軟な分子表面を持つDHFRの時分割ラウエ法を行う上でも大変重要なものと考えられる。
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