研究概要 |
H^+,K^+-ATPase N-末端領域のリン酸化の生理的役割を明らかにするために、細胞及び組織レベルでのリン酸化とATPase活性の相関・H^+,K^+-ATPase標品中(G1)に存在する内在性プロテインキナーゼ及びプロテインフォスファターゼの同定及びH^+,K^+-ATPase N-末端領域と相互作用する蛋白質の検索等について研究を行った。ラット・ウサギ胃H^+,K^+-ATPaseのリン酸化について検討した結果、これらの動物においてもブタと同様にN-末端領域特異的にチロシンリン酸化が起こることが明らかになった。また、これら3種の動物の胃組織をPervanadate処理によってフォスファターゼを不可逆的に阻害したところ、H^+,K^+-ATPaseのチロシンリン酸化量が増加することが明らかになった。このことは、胃組織においてH^+,K^+-ATPaseのチロシンリン酸化が生理的条件下て起こっていることを示唆している。内在性チロシンキナーゼの同定に関しては、特異的抗体との反応性・基質特異性等からc-SRCチロシンキナーゼである可能性が強く示唆されたが、c-SRCそのものであると確認するには至らなかった。内在性チロシンフォスファターゼに関しては、G1画分にPTP-δとSHP-2に対する特異的抗体と反応する蛋白質の存在が明らかになったが、これらフォスファターゼはH^+,K^+-ATPaseのTyr^7とTyr^<10>を脱リン酸化することはできなかった。H^+,K^+-ATPaseのTyr^7とTyr^<10>を特異的に脱リン酸化するフォスファターゼを3種のカラムクロマトグラフィーでブタ胃から精製したところ、精製酵素標品は主要な成分として分子量140kDaと65kDaの蛋白質を含んでいた。これら蛋白質のN-末端アミノ酸配列を解析したところ、65kDa蛋白質はブタ血清アルブミンであることが明らかになった。140kDa蛋白質のN-末端アミノ酸配列と相同性を示す蛋白質はこれまでに報告されていなかった。これらの結果から、胃壁細胞にはH^+,K^+-ATPaseのTyr^7とTyr^<10>を特異的に脱リン酸化する新規フォスファターゼが存在することが示唆された。H^+,K^+-ATPase N-末端領域と相互作用をする蛋白質因子の検索を行ったところ、胃組織に特異的に発現している分子量約35kDaの蛋白質がチロシンリン酸化依存的にH^+,K^+-ATPase N-末端領域と結合することを示唆する結果が得られた。
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