研究概要 |
ホスファチジルイノシトール合成酵素(PIS)はミオイノシトールとCDP-diacylglucerolからホスファチジルイノシトール(PI)を合成する反応を触媒する酵素であり、ホスホイノシチド合成の最終段階に関与している。我々は最近ラットの脳よりPIScDNAをクローニングし、その構造を解析した。本研究で得られた成果は次のとうりである。i)イン・サイトハイブリダイゼーションを用いた組織化学的方法により、adultラット脳では、PISmRNAは神経細胞に富んだcerebral cortex,hippocampus,thalamus,hypothalamusとspinal cordに特異的に発現していた。しかし、corpus callosumのような灰白質に富んだ領域ではその発現シグナルは殆ど観察されなかった。更に、同じ手法により中枢神経系の出生前後のPISmRNA発現を解析したところ、生後18日で主にcortical plateやventricular zoneのような神経細胞に富んだ領域には良く発現していた。ii)RT-PCR法にて、出生後の各部位のPISmRNA発現を定量したところ、その結果はイン・サイトハイブリダイゼーション法で得られたものとほぼ一致していた。発現の強い各部位では出生後直ちにPIS遺伝子の著しい発現上昇が起こり、生後7-14日でピークに達した。iii)予備実験段階では、さらに新規のアイソフォームの存在が予想されていたので、種々の方法を用いてこのクローニングを試みたが不成功であった。iv)慶応大学の梅沢はPI合成の特異的阻害剤であるinostamycinは血清刺激したラット繊維芽細胞のPI合成と細胞周期のGl期進行を阻害することを報告している。今回は彼との共同研究により、もう一つの阻害剤である、δ-hexachl or ocyclohexaneもinostamycinと同様な阻害をすることを明らかにした.更にこのG1期進行の阻害はcyclin Dとcyclin Eの発現阻害が原因であると思われた。これらの結果はPI合成が細胞周期に重要な役割を演じていることを示唆している。
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