ヒト胚子における中枢神経組織内の血管床の発生を、エポキシ樹脂に包埋した頭部の2.5μ連続染色切片の観察により解析した。その結果、ヒト胚子では、中枢組織への血管の最初の進入は、神経管が閉管となるステージ13(受精後26日頃)で第2から第6菱脳分節の隣接する分節の境界部分に、未熟な内皮細胞が作る最初から内腔のある血管が、ループ状に入り込むことから始まることが分かった。この後、後脳の血管床は急速に吻尾に拡がっていく。 胎児期のヒト脳の血管床の形成過程は、正常連続切片の観察に加えて、左心室から墨汁を注入した例についても観察した。前脳とくに終脳では、血管床の形成は、神経組織の構築形成と密接な関係を示す。特に、外套域では、この領域の構築形成の勾配に平行な勾配が血管床の形成においても認められる。しかし、側脳室の脳室層から、放射方向に外套表面に向かっての方向では、脳室下層から外方へ向かって移動中の細胞集塊が見られる中間帯中の血管床の密度の高さが特に目立つ。 なお、前右脳基底部では、前有孔質から前脳基底部に入り、背方へ向かって延びる動静脈(穿通枝)に沿って、神経節丘の内側半の脳室下層の細胞の一部が、腹方に向かって、血管外膜上腔を移動していると解釈される像がしばしば認められた。これらの腹方に移動する細胞群は前脳基底部表面に達すると、側方に向かって軟膜下を移動しつつ拡がり、側頭葉内側皮質、島皮質の軟膜下顆粒層に続くこと分かった。
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