研究概要 |
初代培養神経細胞のNaポンプ(Na,K-ATPase)には,すべての組織や細胞に普遍的に存在するα1型アイソフォームの他に,神経細胞に特徴的なα2型およびα3型アイソフォームが発現する.これらのNaポンプのイオン輸送活性は,種々の刺激により,細胞を興奮させた後あるいは細胞内ATP濃度を低下させた際などに,異なった活性変化を示す.この活性調節機構を解明する目的で,BALB/c3T3細胞にα3型(神経細胞型)Naポンプのα3鎖cDNAを導入したT3-3-3細胞を用いて解析を行い,神経細胞の結果と比較した.この細胞は本来のα1型Naポンプの他にα3型Naポンプが安定に発現し,イオン輸送活性において,α3型はα1型よりも,細胞外のK^+に対して高い親和性を,細胞内のNa^+に対しては低い親和性を示した.また,ATPase活性において,α3型はα1型よりもATPに対して低い親和性を示した.さらに,電気生理学的解析から,α3型は静止膜電位付近では活性が低く,脱分極によって活性が増大することが明らかになった.これらのαl型とα3型Naポンプの性質の相違は,培養神経細胞の興奮した後あるいは細胞内ATP濃度が低下した際に起こるα3型Naポンプの活性上昇に関与すると推定された.しかし,成熟した培養神経細胞においては,興奮後の神経細胞型の活性上昇の程度は顕著であり,またα1型活性は低下した.一方,未成熟な細胞では興奮後に神経細胞型活性とともにα1型活性が上昇した.これらの活性変化の機構すべてを,Naポンプ自身の性質の相違だけで説明することはできず,細胞内情報伝達を介する機構も必要であると推定した.しかし,T3-3-3細胞では,細胞内のcAMP濃度を上昇させる薬物や,protein kinase Cを活性化させる薬物で細胞を刺激したが,イオン輸送活性は影響されず,その機構は神経細胞に特有なものであると推定された.
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