研究概要 |
1. 三頭の頭部を固定した覚醒状態のニホンザルを対象に、本研究を行った.三次元眼球運動は、dual search coil法で記録した.滑車神経線維の滑車神経交叉近傍を細胞外単一神経細胞記録によって同定した後、静的頭部傾斜(直立位、右耳下40°、左耳下40°)時の自発眼球運動中に2秒間隔で微小電気刺激を行った. 2. 微小電気刺激は、刺激幅0.25m秒からなる定電流陰性矩形波で構成されており、刺激頻度500Hz、刺激強度10〜50μA、刺激時続時間25〜200m秒で行った. 3. 3頭のサルで合計12箇所で滑車神経の微少電気刺激を行った.電気刺激により,5-8ミリ秒の短潜時で解剖学的に報告されている上斜筋の作用方向と定性的には一致する眼球運動(内旋、下転、外転)がListingの平面から突き出すように誘発された.その誘発眼球運動の持続時間は、電気刺激の持続時間に一致しており、三次元眼位のいずれの成分も電気刺激終了後、開始時とほぼ同一の潜時を持って指数関数的に刺激前の眼位へ復帰する傾向が見られた。誘発眼球運動を一回の回転として表したときの平均の回転軸の方向は、電気刺激の強度、持続時間には影響されないこと、また、上斜筋の主たる作用平面である回旋-垂直平面では,眼球運動誘発時の水平眼位とは相関しないことが明らかとなった. 4. この結果は,上斜筋の作用方向がその解剖学的な主たる作用平面である回旋-垂直平面では,眼球に対してではなく眼窩に対して固定されていることを示唆しており,これまで上下直筋、内外直筋で報告されている軟性滑車(Soft pulley)が、上斜筋では,有効には作用していない可能性が考えられた.
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