研究概要 |
本研究は,加齢に伴って変化する人の感覚感性と行動様式の解明を目的としており,高齢者の行動様式に対して運動の直接測定を行い,日常生活活動レベルの評価等を行うシステムを開発し,検討を行ってきた.特に"移動"に関する日常生活活動レベル(ADL)を評価する観点により,"移動"の基本とされる歩行動作に着目し,各種歩行路に対する歩行形態の評価,筋力低下や関節拘縮が歩行動作に及ぼす影響の評価,および手すりや補助具の効果やそれらによる身体安定性の評価等の研究から多角的に解析を行ってきた.また,一般に加齢に伴って大きく変化する視覚認知能力についても,高齢者の色彩に対する視覚機能評価,および運転中の高齢者の認知能力や運転特性評価を行うことにより様々な場面を想定した高齢者の活動レベルを評価することも試みた. 各測定は,75歳以上の後期高齢者を主とする被験者を用いて行うために,安全性と簡易測定を十分に考慮した測定システムを構築した上で被験者の負担を最小限に抑えるように行った.主な測定システムは,感圧導電ゴムセンサを用いた足底圧や手掌圧接触圧力測定システム,一連の関節運度や環境との相対運動を多方向同時ビデオ撮影法とDLT(Direct Linear Transformation)法を応用した3次元運動解析システム,また,高齢者の視覚認知能力を調査するための眼球運動測定装置等から構成される. 本研究の主な結果として,加齢に伴う歩行形態の変化については,足底接地面積をより大きく保ち,蹴り出しや接地時の衝撃を抑える等の傾向が認められた.また,高齢者の視覚認知能力が,若年者が周辺視で視対象を数多く認知できるのに対して,眼球を動かすことと,中心視により断続的に情報を得ている傾向が認められた.そこで,今後は,本研究で明示された結果に基づいて,日常生活動作における評価レベルの算定やリハビリプログラムの決定方法等に応用が可能であると考えられる.
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