研究概要 |
本研究は平成9年度〜平成11年度の3年間の研究計画によって構成されている。平成9年度はブタ大動脈組織からエラスチンを単離して、そのエラスチンを熱シュウ酸処理することによりα-エラスチンを調製した。α-エラスチンに疎水性アミノ酸誘導体であるVal-OMeを種々の濃度(5,10,20,30,50,100等量)の水溶性カルボジイミドを用いて結合させて化学修飾α-エラスチンマトリックスを作製した。水溶性カルボジイミド20等量を用いて作製した化学修飾α-エラスチンマトリックスのコアセルベート特性が最も良好な結果((1)コアセルベーション開始温度が最も低温側にあること、(2)コアセルベート層を最も短時間で形成すること)を示した。平成10年度は化学修飾α-エラスチンマトリックスのCDを測定し、その二次構造はα-ヘリックスであることを示した。平滑筋細胞の増殖を促進する酵素のチロシンキナーゼの阻害薬であるゲニスチンは化学修飾α-エラスチンマトリックス・コアセルベート層中に約30%取り込まれる結果が得られた。エラスチン中の高ホモロジー領域に共通して存在するペンタペプチドGly-Val-Gly-Val-Pro(GVGVP)繰り返し構造部分のポリマーを合成し、ポリペプチドマトリックスを作製した。ポリマーの大きさとコアセルベーション特性を検討したところ、ポリマーが大きいほど、低温側でコアセルベーションが開始されることがわかった。平成11年度は化学修飾α-エラスチンマトリックスの血小板凝集阻害能を検討した。その結果、化学修飾していないα-エラスチンに比べて約2倍の血小板凝集阻害能が認められた。ニワトリ血管平滑筋細胞に対しては化学修飾α-エラスチンマトリックス及びポリペプチドマトリックスの遊走活性が認められた。実験計画ではウサギ及びヒト血管平滑筋細胞を用いて検討する予定であったので1年延長し、それらの遊走及び増殖に対する化学修飾α-エラスチンマトリックス及びポリペプチドマトリックスの効果を検討したところ、これらのマトリックスはいずれも平滑筋細胞の遊走及び増殖を促進した。また化学修飾α-エラスチンマトリックス・コアセルベート及びポリペプチドマトリックス・コアセルベートの効果を検討したところ、いずれも平滑筋細胞の増殖を抑制した。このことからコアセルベート状態のマトリックスの有用性が認められた。
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