研究概要 |
前年度は、脳卒中片片麻痺患者の足趾感覚と重心動揺の回復過程の相関について検討し、感覚再教育訓練の重要性を提言した.平成10年度は、適切な感覚再教育訓練を含んだバランス治療プログラムを作成し、その検証も併せて考察する.先行研究において、本機器により、高齢者の足趾感覚閾値は若年者の数倍から十数倍という結果を得た.そこでまず,脳卒中患者と同様に足趾惑覚が低下している健康高齢者に対するバランス訓練の効果について、簡便式バランス訓練プログラムを考案し、検討を加えた.具体的には、健康高齢者4名について感覚刺激を含めた足趾の機能訓練およびバランス訓練を試行した.この訓練プログラムを、毎日2セット(1セット20分)実施させ、訓練前と7日間の訓練期間を経た訓練最終日に関して、バランス評価の1示標である重心動揺実効値(RMS)を比較検討した.結果は、正常な床面条件下では、閉眼において訓練前に比べ訓練後は重心動揺が0.8倍となり,よりバランス能力の安定傾向を確認した.また、柔らかいマット上で足底の感覚刺激を減少させた状況下で計測したところ,開眼において、訓練後は訓練前に比べ重心動揺が0.67倍となり改善傾向を示した.これより、短期間のバランス訓練実施が,高齢者のバランス維持、改善に有効である可能性が示唆された.高齢脳卒中患者においては、北海道の冬期間は特に,屋外に出にくい状況のため、日常の活動能カの低下が指摘されているが,本研究で作成したプログラムは、屋内で比較的短時間で容易に実施できることから、長期間継続可能でありバランス訓練として有益であると考える.今後の課題としては、(1)症例数を増やしながら、加齢に伴う姿勢動揺,足趾の体性感覚の変化検討に加え、性差および利き足、非利き足によるバランス保持の機能的相違を検討する、(2)加齢に伴い感覚情報としての視覚、聴覚、体性感覚の変化,各機能の減退の程度とバランスとの関係を明らかにする、(3)被験者の個々人の経年的変化の調査を実施する、以上3項目に関する研究の充実が必要であろう.臨床応用として中枢神経疾患における麻痺則の運動機能および立位バランスの回復改養を促進するために足趾,足底感覚からの情報が重要であり,運動面からの静的,動的バランス訓練に加え、積極的、かつ適切な感覚回復訓練の必要性が示唆された.また、触覚デバイス設計の基礎研究として、手指の材質認識特性を左右する要因として、温度変化パターン情報が深く関与し、触察動作においては異なる温度依存性があることが明らかとなった.実験の変更点としては,(1)当初予定していた感覚計測型フィードバックシステムによる訓練機器の開発は実施したが、総合的バランスシステム開発に関しては本研究による基礎研究に基づく提言にとどまった.以上の1点であり,本研究課題の平成10年度研究計画はほぼ達成できた.
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