研究概要 |
Wave Intensity(WI)は,循環系内の着目した1点の血圧波形(P)と血流速度波形(U)の形成に際して,心臓から末梢へ伝わる前進圧力波と末梢で反射して心臓へ戻る反射圧力波のどちらの影響が優勢であるかを,簡単に判定できる指標としてKim Parkerらにより提唱された.WIは,PとUの時間変化率を掛け合わせた量(dP/dt)(dU/dt)として定義される.WIが正の場合は,前進波の影響が優勢で,負の場合は,反射波の影響が優勢である. WIの物理的意味はこれだけであるが,我々は動物実験に基づきWIの次の様な生理学的性質を明かにした.WIは,駆出期を三つの時相に分ける.つまり,駆出早期にWIが鋭い正のピークを形成する時相,駆出中期にWIがゼロ付近の平坦な波形を示す時相,駆出後期にWIが再び正のピークを形成する時相である.第一のピークは,心臓が発生する前進圧縮波を示し,収縮性の増強に鋭敏に反応してその高さを増す.第二のピークは,心臓が発生する前進膨張波を示し,血管コンプライアンスの低下とともにその高さを増す.末梢抵抗の増大や狭窄の存在は,駆出早期および中期のWIをしばしば負にする.これらの性質のため,WIは心臓-血管系干渉の解析に用いる指標として多くの可能性を有している. さらに,我々はWIを非侵襲的に求める方法を考案し,種々の心疾患例においてこれを求め,比較検討した.超音波ドプラ法とエコートラッキング法を複合した装置を用いて,総頚動脈の血流速度と血管径変化を同時測定する.カフ型血圧計を用いて血圧を測定し,最大血圧と最小血圧を血管最大径と最小径にそれぞれあてはめ血圧変化波形を血管径変化波形で近似する.こうして求めた血圧と血流速度からWIを求める. WIは疾患ごとに特徴的な波形を示し,病態の解析に有用と考えられた.
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