本研究は近年、無侵襲的に自律神経系の状態推定を行う手法として注目を集めている心拍変動解析の方法論の開発と評価を行うこと目的したものである。心拍変動には個人差の大きな呼吸性変動及び血圧性の変動があり、周波数帯域パワーの解析を行う場合、評価のさまたげとなることが多かった。 本研究では適応信号処理の手法を用い、呼吸・血圧との同時記録からそれらの成分を除去し心拍"固有"の変動を抽出できることを示した。すなわち、RR間隔系列に対してDCSI法により瞬間心拍数を推定したものを主入力、瞬時肺容積及び最大圧包絡線を参照入力としてRLSアルゴリズムによる信号キャンセルを行うことにより心拍変動より呼吸・血圧変動成分を除去できることを示し"固有"心拍変動と名付けた。 計算機シミュレーションとして、心拍・血圧間にフィードバックループを持つ現実に近い信号生成モデルにより心拍・呼吸・血圧変動の人口的なデータを生成し、本手法の有効性を確かめた。次いで、正常成人14名を被験者とし、仰臥位及び立位で実験を行い実データに本手法を適用した。その結果本研究で開発した手法を用いないスペクトル解析において極めて大きな個人差を示していたが適用後のデータ解析によって両状態とも広い周波数範囲において一貫して周波数のα乗に逆比例するスペクトルパターンを示した。さらに、従来LFとHFの境界として提案されている0.15Hzを境に立位においてLF優位となり安定した交感神経・副交感神経の活動指標が得られることが示された。 本手法は自律神経系の診断を客観化することに貢献するとともに、ヒューマンインターフェース評価等にも応用可能であり、研究成果の社会的意義は大きい。
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