研究概要 |
今年度は、研究目的で示した後半部-メルロ=ポンティおよびフッサール現象学と認識論的相対主義をめぐる問題-の研究を遂行した。この成果は、“Husserl and Merleau-Ponty-The Conception of The World",in Analecta Hussserliana,LVIII,1998.と平成11年3月に刊行予定の『知覚とことば』(ナカニシヤ出版)の第3章〜第5章においてまとめられた。前者においては、フッサールとメルロ=ポンティの反相対主義的な思考を、「世界」という概念に対する両者の考え方の異同を考察しつつ明かにした。後者では、フッサール、ハンソン、クーンおよびかれらを受容している分析哲学者の研究をメルロ=ポンティと比較することにより、後者の存在論的現象学のもつ射程と限界を考察した。具体的には、フッサールとメルロ=ポンティの普遍主義的(反相対主義的)な思考のもつ意味を「目的論」と「始源論」という観点から考え、後者が「真理の起源」として定義しようとした普遍性の輪郭を申請者なりの観点から描き出した。また、人間が生を営む世界は知覚によって意味づけられるとともに言語によっても影響されている。そこで、認識をより強く左右するのは言語である(言語相対主義に繋がるものである)のか、それとも言語の影響を受けないような知覚世界(メルロ=ポンティの存在概念やフッサールの生活世界概念と重なるものである)があるのか、ということが問題となりうる。これは、相対主義の問題をとくに言語という観点から取り上げたものである。「知覚と言語が交わるところ」『メルロ=ポンティ研究』(第4号所収)は、知覚と言語の関係について、メルロ=ポンティ現象学、言語相対主義、ギブソンの生態学的実在論などをふまえたうえで論じている。同論文は、前述の二つの業績で論じられた成果にもとづいて、相対主義を言語という観点からより先鋭化させたかたちで引き継ぐことを企図した申請者の次なる研究課題への通過点となるものである。
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