研究概要 |
日本語における日常概念の獲得過程を再現するような,本格的なニューラルネットワーク・モデルを構築する,というのが本プロジェクトの最終目標であった。シミュレーション・モデル自体は完成には至らなかったが,概念獲得を中心とした人間の認知過程をニューラルネットワーク・モデルで再現するモデル・理論を構築する上で有用な多数の心理学的・認知科学的知見と工学上のノウハウを得た。 研究費で購入した2台のコンピュータに,モデルのプロトタイプ構築に用いるニューラルネットワーク・シミュレータであるPDP++およびTlearn,モデルが処理する概念表現の定式化に用いる電子化辞書EDRをインストールした。PDP++およびTlearnについては,日本語概念獲得モデルの試作を行った。これらの開発環境は,より基礎的な初期運動知覚に関するニューラルネットワーク・モデルを構築する研究においても役だった。電子化辞書EDRについては,付属の日本語コーパスや,日本語形態素解析ソフトであるchasenと併用して,現実場面で用いられた大量の日本語文データを,ネットワークモデルに適した分散的概念表現へと変換・抽出する方法を開発し,本格的な概念獲得システムを構築する準備がほぼ整った。 モデルの動作と対照される人間の心理学データについては,最終的な学習パラダイムとして有力な,比較に基づく学習(Spalding and Ross,1994)に関して,言語学習にとっても重要な属性間相関の補完現象の生起条件と限界について検証する心理学実験を行った。また,概念の創造的使用プロセスの代表例として,メタファの理解過程を取り上げ,そのオンライン処理過程の詳細を明らかにする実験研究を行った。これらの結果は,人間の学習および言語理解過程のニューラルネットワーク・モデルを構築する際に基礎データとなるものである。
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