研究概要 |
1. 前年度に引き続き,複雑な凹図形が全体として一つの物体として注意の対象となるかを検討した.新しい課題として,注意の伝播を調べる空間手がかり課題を用いて,注意の伝播が,図形の形態の制約を受けるのかを調べた箱形の凹図形を用いた条件では,空間手がかりの効果が手がかりとターゲットの空間上の最短距離ではなく,図形上の移動距離に規定されることが明らかになった.これは,複雑な凹図形全体が注意の伝播にとっての物体として機能していることを示唆する.前年度の属性比較判断課題を用いた知見と総合すると,視覚的注意が関与する広範な状況において,複雑な凹図形が注意の向けられるユニットとして機能しているらしいことが分かった.2. 物体ベースの注意効果と物体の幾何学的特性,及び,表面属性の効果の検討を継続した.複雑な図形の位相幾何学的複雑性と選択的注意の関連を調べる単純な位相構造を持つ図形(長方形をJ字形に組み合わせたパタン)と複雑な構造を持つ図形(H字形のパタン)を用いた線分数の比較判断課題により,注意システムが対象とする物体の表象は,形態情報を含まない均質な結合領域ではなく,単純な位相構造を持つ均質結合領域に限定されることが示唆された.この知見が,形態情報処理の初期段階における分節化を反映していることを確認するために,図形の呈示時間を短縮し,マスク刺激を用いた実験を行った.この場合にもやはり物体ベースの注意効果が単純な位相構造を持つ均質結合領域に限定されたことから,視覚システムが,形態情報に基づく領域の分節化を非常に早い段階から行い,視覚的注意がこの段階で構成される表象に向けられていることが明らかになった,同時に,位相構造の効果が,大域的構造,局所的な分岐構造のいずれを反映しているのかを検討するためにb字形のパタンを用いた実験を行った結果,大域的構造を反映していることを示唆する結果が得られた.
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