研究概要 |
平成10年度は,昨年度に引き続き,行為の記憶実験に用いる記銘材料となる,行為文に関する基礎的研究を行った。研究に用いた行為文は全部で32文であり,身体部位のみを用いて行う簡単な行為を表したものであった(例:鼻をさすれ,腰をなでろ)。 実験の目的は,各行為文の熟知価,学習容易性,イメージ価といった特性と再生記憶との関係についての検討であった。行為文32はモデル人物が実演している場面をビデオ撮影したもの(EPTs;実験者実演課題)を被験者に呈示して,熟知価,学習容易性,イメージ価のいずれかを評定させ,その後に偶発の自由再生を施行するという手順で進められた。 実験の結果,各行為の評定値と再生率に有意な相関が見られたのは学習容易性の評定をした場合(r=.47)のみであり,熟知価(r=.17)及びイメージ価(r=.11)では有意な相関が見られなかった。また,行為文を言語的に呈示した場合(昨年度のデータ)とEPTsで呈示した場合の評定値の相関を見ると,熟知価(r=.86),学習容易性(r=.77),イメージ価(r=.63)ともに有意であった。再生数に関しても,呈示(言語・EPTs)×評定(熟知価・学習容易性・イメージ価)の分散分析を行ったが,何も有意にはならなかった。 これらの結果から,1.記銘項目である行為文の特性としては,学習容易性のみ,後の再生率と関連がある。2.EPTsの再生率が言語呈示に比べて高いわけではない,と言える。 1.の点について言えば,従来の単語を記銘材料にした場合の知見と食い違っており,記銘材料が単語であるか,行為文であるかによって,その属性が再生可能性に与える影響が異なることが示された。2.に関しては,行為文を言語的に呈示するより,EPTsで呈示する方が再生が優れるという先行研究の知見と一致しない。今回は符号化時に評定をさせたため,先行研究とは異なる符号化が行われた可能性がある。今後の検討課題である。
|