研究概要 |
本年度は(1)昨年度の研究結果を国際会議で発表し(1998年6月),さらに(2)調波複合音と合成音声の間で見られた干渉効果の違いが音声と非音声の違いによるものなのか,それとも課題の性質によるものなのかをさらに明らかにするための実験を行った. 実験では,まず,聴力が正常な15名の被験者から,5秒の間隔を置いて提示される二つの音(テスト音)の高さが同じか,半音違うかを正確に判断でき,かつ絶対音感を持っていない被験者8名を選び出した.次に,(1)調波複合音,(2)母音部分の基本周波数を定常にして高さを明確にした合成音声(数詞)を高さが同じになるように合成して刺激とした.この二種類の刺激をテスト音とその間に挿入される6個の挿入音として用い(挿入音のない条件を含む),さらに被験者の課題を(1)テスト音の高さの再認のみ,(2)挿入された数詞の系列再生のみ,(3)二重課題,としてこれらを組み合わせた実験条件を設定した.誤り率を逆正弦変換した後,分散分析を行ったところ,以下のことが明らかになった.(1)高さの再認誤り率に関して,挿入音の有無だけが結果に影響し,挿入音を入れることで有意に誤り率が上昇した.テスト音や挿入音が複合音か音声か,二重課題かそうでないか,ということに関しては有意差がみられなかった.(2)数詞の再生誤り率について,テスト音と課題の主効果が有意で,音声のテスト音と二重課題が有意に誤りを増加させた.したがって,(1)高さの再認に関しては,挿入音が音声であるかどうかは影響しない,(2)数詞の系列再生に関しては,二重課題による負荷の増大だけでなく,テスト音と挿入音が分凝されるかどうかで誤り率が変化すると言える.
|