研究概要 |
構築中の多言語認知モデルの妥当性を検証するために,心理実験を行った.日本語には漢字仮名混じりで表記される単語が数多く存在するため,漢字と平仮名を統合した表現が存在することが予想される.本実験では,漢字仮名混じり語において単語優位効果がみられるかどうかを確かめることによって,この仮説を検証した. 実験1の刺激は漢字1文字・送り仮名1文字の動詞で,縦書きで呈示した.単語条件の刺激は,単語の5種類の活用形からランダムに1種類を選択したものだった.非単語条件の刺激は,選択肢の属性を単語条件と一致させながら,漢字と送り仮名を単語にならないように組み合わせて作成した.被験者は,漢字条件では刺激に含まれていた漢字を,平仮名条件では刺激に含まれていた平仮名を,選択肢の中から選ぶことを求められた.凝視点に続いて刺激が,その直後にパターン・マスクが,最後に選択肢が呈示された.刺激の呈示時間は平均正答率75%程度を目標に被験者ごとに調整した.本試行の試行数は256回,刺激呈示時間の平均値は44msecだった.分散分析の結果,単語は非単語より有意に正答率が高かった(F(1,19)=24.78,p<0.01).漢字仮名混じり単語においても単語優位効果がみられたといえる. 実験2では,横書きの刺激を用いて,実験1の結果を再確認した.方法は,刺激を横書きにしたこと以外は実験1と同じだった.実験1と同様,単語は非単語より有意に正答率が高かった(F(1,19)=6.28,p<0.05). 縦書き・横書きのいずれの場合においても単語優位効果がみられた.日本語の視覚的認知過程には漢字と平仮名を統合した表現が存在し,両者は同一のメカニズムによって処理されていると思われる.
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