研究概要 |
本研究は2ヵ年で3つの段階をもって遂行することを計画していた.昨年は,第1段階の目的であった実験の方法に関する充分な予備実験を実施した.具体的には強制選好注視法による実験装置を設定し,乳児が刺激画面を注視すること,また生後12週から19週の乳児のコントラスト感度と運動検出閾を測定した.今年度はまず第2段階の目的であるNagata and Dannemiller(1996)の追実験を実施した.その結果,本研究の実験設定においても,複数の静止刺激の中にある運動刺激が,生後14週児の視覚的注意を喚起すること,また乳児の視覚的注意は成人のそれと異なり,対象の運動そのものよりも,運動している対象の色と周辺の色との関連性に影響をうけることを確かめた.その上で,第3段階の乳児の視覚的注意における色の情報についての検討を加える実験を実施した.ここでは,Nagata and Dannemiller(1996)の刺激状況に視覚的探索の方略を加えて,単一の目標刺激項目(運動刺激)と複数の妨害刺激項目(静止刺激)から構成される刺激を設定した.さらに色については刺激項目の色が全て同じ色の条件の場合と刺激項目の半数が異なる色の条件の場合を,妨害刺激項目の数も3種に変化させ,また発達的変化を捉えるために年齢群も2群設定した.その結果,生後14週の乳児では同じ空間内に色と運動の情報が競合している場合,運動情報よりもむしろその周辺に存在する対象の色の情報だけでなく,存在数によっても影響をうけること,一方で,生後24週児においては,そのような影響をうけずに,成人と同様の探索方略が可能であったことが明らかになった.これらのことから,人間の場合,生後24週という時点では,すでに色または運動という一次元のモジュールに依存した情報分離が可能であるが,生後14週という時点においては,それらがまだ成立していないことを示唆するものと考えられた.
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