研究概要 |
昨年度に引き続き,読みの発達の遅滞における視覚的要因について検討を行った。最近欧米では,視覚の過渡系の障害が眼球運動の異常を引き起こし,音韻分析能力とともに読みの発達を阻害すると考えられている。そこで,このような過渡系の障害が日本語かな文字の読み障害児においても見られるのかどうかを検討した。すなわち,筆者の自験例である精神遅滞を伴う読み遅滞児について,読みに問題の見られない精神遅滞児や,健常成人,健常幼児各数名ずつと比較した。その結果,読み遅滞児は1事例を除くと,眼球運動の障害を示唆する文字や行の読み飛ばしを示さなかった。むしろ読みの発達の順調な精神遅滞児の方が,文字や行の読み飛ばしを多く示した。また,過渡系の機能について検討するために,コヒーレント・モーション感度を測定したところ,読みに遅滞を示す精神遅滞児と読み発達の順調な精神遅滞児とは,ともに健常成人より感度が悪かった。特に後者,すなわち読みの障害を示さない精神遅滞児の方がやや感度が悪かった。ただし,得られた数値が欧米の先行研究より高い閾値を示しており,装置の精度によるアーチファクトが混入した可能性がある。以上より,日本語かな文字における読み発達遅滞児には,過渡系の障害がないと考えるべきなのか,それとも,過渡系の障害は読みに影響しないと考えるべきなのかは,今後引き続き検討する必要がある。また,後者の場合,それは日本語かな文字,あるいは日本人に特有のことなのか,それとも欧米の仮説が誤っているのかについて,検討する必要がある。
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