研究概要 |
本研究の目的は,図形の大小比較に関する方略がどのように発達するのかを検討することであった。昨年度の研究結果から,面積の大小に関する年少児の知識が“重ねる"という操作によって構造化されていることが示唆された。すなわち,3,4歳児であっても,重ね合わせた図形の大小を適切に判断できるが,“重ねる"操作を図形の大小比較の道具として自発的に利用できるようになるのは,5,6歳児以降であった。そこで,本年度は,“重ねる"操作を図形の大小比較の道具として自発的に利用できることが面積概念の発達にとってどのような意味を持つかを検討した。具体的に,“重ねる"操作を自発的に利用する子どもとそうでない子どもについて,図形の大小判断の能力を比較した。 同意を得た保育園で3〜6歳児に2つの課題を実施した。a) 図形の自由比較課題(被験者に2つの三角形または四角形の大小を自由に判断させ,子どもが自発的に用いる大小比較の方略を観察する)。b) 大小判断課題(基準図形と対象図形の大小を知覚的にまたは直接手で操作して判断する)。以上の実験の結果から主に次のことが示唆された。 1. “重ねる"操作を自発的に使用する子どもは,2つの図形の大小を判断するとき,直接図形を操作しなくても(知覚的に判断する条件),一方の図形と重なる図形を正しく予測することができた。すなわち,“重ねる"操作を心的に行うことができた(“重ねる"操作を内化している)。 2. “重ねる"方略を自発的に用いる子どもは,2つの図形を手で操作しながらその大小を判断するとき,一方が他方に重ならない図形であっても,大小を正しく判断できた。すなわち,重ねるという操作を通して,面積判断の正しいルール(四角形の面積=縦×横)にアクセスすることができた。
|